
‘ちょっとチクッとしますよ。’
医者は細い注射で口の中をあちこち刺しながら言いました。最初はちょっと痛かった歯茎も、だんだんと他人の肌のように無感覚になっていきました。まるで死後硬直が始まった死体の肌のように。
‘インプラントの施術をするときに歯も一緒に埋めるんだと思ってましたよ。’
‘みんなそう思いますよね。インプラントは風邪や胃腸炎みたいに幼い頃から経験するものとは違いますからね。でもその前に歯が生えていないじゃないですか?常識的に考えて、埋めるものがないのに。ハハ。’
一瞬、顔が熱くなるのを感じました。
‘ああ、以前にレントゲンを何度か撮ったので、もしかしてそれで事前に作ってあったのかなと思ったんです。’
‘それは二次元ですよね。新しく埋める歯としっかり合うように作るには、それだけでは無理ですよね。理系って言ってませんでしたっけ?’
‘ハハ。ただの冗談ですよ。’
黙っていればよかったのに。
’20分くらい待合室で待っていてください。そのくらいで麻酔が効くと思います。麻酔が効いたらすぐに施術を始めますね。’
待合室でインプラントについて検索していると、医者が再び呼ぶ声が聞こえました。私は再び手術椅子に戻って座り、どうやって医者に仕返しできるか考えていました。その間に看護師が二人、医者の後ろと自分の左側にそれぞれ近づいてきました。
‘簡単な手術ですが、口の周りを消毒して、顔に手術用の布をかけますね。’
その言葉が終わるや否や、医者はピンセットで消毒綿をつかんで口の周りを拭き始め、私は全身に寒気を感じました。手術布を顔にかけると周囲が真っ暗になりました。おそらく私の口はゴルフ場のグリーンの穴のように見えるでしょう。医者はゴルフが好きだと言っていました。
‘これで旗竿を立てればちょうど…’
医者は独り言をつぶやきました。
‘消毒するのにこの手術布はなぜかけるんですか?衛生とは関係ないですよね?’
‘長時間の手術で赤色をずっと見ていると目が疲れて残像が残るんですよ。歯茎の骨を貫通しなければならないのに、頬を貫通したらまずいですからね。ハハ’
それは大変なことだ。
‘今日するのは植立で、歯茎の骨に穴を空けて固定体 – フィクスチャーとも言いますが – を埋めるんです。その後、そのフィクスチャーにカバースクリューを接続します。それで終わりです。’
‘カバースクリューって何ですか?’
‘後で義歯(人工歯)と歯茎に埋め込まれているフィクスチャーをアバットメントというもので接続するんですが、その時にそのアバットメントがうまく合うように事前に位置を決めておくんです。ボタンをはめておくと思ってください。’
‘ボタンをはめるんですか?歯にボタンを?’
医者は無視して話を続けました。
‘じゃあ、麻酔が効いたか少し触ってみますね。感じますか?’
‘ええ、何か遠い壁を叩いている感じです。’
‘まだ触っていませんが…’
心の準備ができていなくて少し時間を置きたかったのですが、医者が冗談を言うとは思いませんでした。
‘じゃあ始めますね。’
‘ちょっと待ってください!’
‘… なぜですか?’
‘まだ麻酔が完全に効いていないかもしれませんから。’
‘今こうして歯をつかんでいるのに気づいていませんよ。’
‘本当ですか?’
‘嘘です。歯をつかんでいたらそんなに楽に話せるはずがありませんよ。’
今や挽回も何も早く終わってほしいという思いだけでした。
’10ミリドリルをください。’
医者が言うと看護師が何か重いものを医者に渡すのが感じられました。
‘じゃあ口を大きく開けてください。顎を下に下げて。’
‘ああ….’
‘顎を上げずに、首の方にくっつけてください。それができないんですね。’
‘えっ?’
‘いや、独り言です。手術中に唾液が出ても心配しなくても大丈夫です。看護師が全部吸い取りますから。それでも唾液が溜まるのを感じたらそのまま喉に流してください。わかりましたか?あー、本当に、顎で胸を指してと言ってるのに?’
‘.. 誰の胸ですか?’
‘はい、あなたの.. いや、患者さんの胸ですよ当然!’
‘左側ですか?’
‘私が自分でやりますから。’
医者は手で私の顎を押しながら話していました。
‘実際の振動よりも強く感じるので、怖がらないでください。’
‘ドゥルルルル… ‘
奥歯の下の歯槽骨に少し痛みを感じました。しまった、まだ麻酔が完全に効いていないのか?でも、我慢できました。でも、10ミリドリルということは1センチメートルということですが、一体どれだけ広い穴を開けるんでしょう?直径1センチメートルのドリルなら歯槽骨の近辺を全部潰してしまうんじゃないか?と不安になりました。1ミリを頼むべきだったのに、間違って10ミリを頼んだかもしれません。でも、医者がミスしたとは認めたくないでしょうから。(私でもそうするでしょう)どうにかして幅10ミリのドリルで解決しようとしているのでしょう。どんなにポジティブに考えようとしても – 歯槽骨はテーブルの天板じゃないし – 幅1センチのネジ穴を作るってありえるのか?そのくらいなら机の脚も固定できそうです。
‘今回は12ミリドリルをください。’
これは本当に黙っていてはいけない状況のようでした。
‘おいおい.. 医者さん…!’
‘え?ちょっと待ってください。ここピースクションを少し..’
看護師が急いで吸引用ホースで奥歯の歯槽骨近くを掻きました。吸い取れなかった血が喉に流れてきました。鉄臭い血の匂いがしました。
‘1センチは幅が広すぎるんじゃないですか?’
‘…. 長さです。’
‘どんな長さですか?’
‘いや、ドリルの長さが1センチなんです。幅じゃなくて。’
‘あ.. ああ…’
私は手術が終わるまで何も言えませんでした。